11. 概念分類

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 本章では,哲学の対象となる概念について改めて考えよう。哲学は主観による概念の判断の過程と定義したが,すべての概念が哲学の対象になるのだろうか。それとも,一部の概念のみだろうか。

 

 そこで,まずは概念にはどういうものがあるか分類してまとめてみる。そのために「言語と意識作用」の章でも扱った10種類の品詞とそれらに対応する概念を再度確認しよう。

 

表11.1 品詞・概念の対応と例

 

品詞

 

概念

名詞

固有名詞

――

個体概念

ソクラテス,織田信長,東京タワー,富士山,日本,『源氏物語』,忠犬ハチ公

普通名詞

――

具体概念

(一般概念)

犬,人,鳥,動物,桜,植物,生物,机,消しゴム,ギター,トマト,バナナ,卵,車,日本刀,コンビニ,家

――

抽象概念

(一般概念)

手,社長,作品,高校,家族,歩き,詐欺,長さ,静かさ,調子,哲学,考え,需要,正しさ,幸せ,欲求,方法,能力,雨,水,電子,時間,現在,森,空港,価値,お金,文化,サッカー,政治,オンライン,言語,情報,単語,割合,形,音,対象,存在,感覚,心

形式名詞

――

形式概念

もの,こと,ところ,とき,ため,とおり,ほう,はず

数詞

――

数概念

3人,8月,2007年,9日,100円,5 cm4番目,26回,1枚,いくつ

代名詞

――

人称概念

私,僕,あなた,君,彼,彼女,誰

――

指示概念

これ,それ,あれ,ここ,そこ,あそこ,こちら,そちら,あちら,どれ,どこ,どちら

動詞

動作動詞

――

動作概念

歩く,生きる,食べる,来る,する,変更する,デザインする,申し込む,出会う,歩行する,思考する

存在動詞

――

存在概念

ある,いる,存在する

 

形容詞

――

特徴概念

長い,軽い,赤い,熱い,甘い,丸い,眠い,強い,欲しい,よい,正しい,悲しい

 

形容動詞

――

特徴概念

静かだ,豊かだ,確かです,平和だ,簡単だ,自由です,具体的だ,健康的だ,積極的です

 

連体詞

――

特徴概念

大きな,おかしな,ほんの,この,大した,とんだ,去る,ある,あらゆる,いわゆる

副詞

様子の副詞

――

様子概念

ゆっくり,のろのろと,すたすたと,ザーザーと,ワンワンと,ときどき,しばらく,すぐに,こっそりと

程度の副詞

――

程度概念

少し,やや,とても,かなり,きわめて

呼応の副詞

――

意味概念

おそらく,きっと,もし,仮に,まるで,あたかも,少しも,決して,どうして,なぜ,どうか,ぜひ

 

接続詞

――

接続概念

だから,したがって,けれども,しかし,さらに,そして,あるいは,なぜなら,すなわち,ところで

 

感動詞

――

感動概念

あら,おや,ああ,ねえ,おい,もしもし,こら,うん,いいえ,おはよう,さようなら,よいしょ,えい

助詞

格助詞

接続助詞

――

接続概念

は,が,を,に,と,ので,けれど,ても

副助詞

終助詞

――

意味概念

まで,さえ,だけ,かしら,ねえ,なあ,わ,ぞ

 

助動詞

――

意味概念

だ,です,れる,させる,そうだ,ようだ,らしい,たい,まい,た,よう,ます,ない

 

 前の章で,10種類の品詞のすべての単語に対応する心的イメージを概念と呼ぶことにした。そして,結論から言うと,すべての概念は哲学の対象になりうると考える。哲学をしようと思えば,どのような概念であれ,哲学することができるように思われる。

 しかし,通常よく哲学の対象になる概念はあるように思われる。やはり,最も頻繁に哲学の対象となる概念は抽象概念だろう。頻度は落ちるが,次に形容詞・形容動詞由来の特徴概念も哲学の対象になりやすいと思われる。これらは,抽象的・主観的(心的)であるから哲学の対象になりやすいのかもしれない。ただ,やはり最もよく哲学の対象になるのは,何と言っても,抽象概念だろう。そこで,今後の哲学を容易に進めるためにも,ここで抽象概念について整理しておきたい。

 まず,普通名詞に対応する概念を「一般概念」と呼ぶ。そして,一般概念は「具体概念」と「抽象概念」に分類される。具体概念は,見たり触ったりできる個体を材料に個体概念を経て形成される概念である。似ている個体概念をグループにして,そこに共通した性質に名前をつけたようなものである。これらは具体的な概念と言えるから,「具体概念」と呼ぶことにする。

 それ以外の一般概念は抽象概念である。抽象概念の形成過程はひとくくりに語れるような単純なものではないが,いずれにせよ抽象的なものを表している。哲学では,何と言っても,この抽象概念が最も対象にされやすいと思われる。全体像をつかむために,まずはこの抽象概念を,例を挙げながら,いくつかのジャンルに分類してみることにする。

 

 まず,インターネット上にある様々な分野の報道記事などから,使用頻度の高い約7000語の普通名詞を選出した。これらの中の抽象名詞 を以下のジャンルに分類し,各単語が一般に哲学の対象としてよく扱われるものかどうかを「○(よく扱われる)」「△(どちらとも言えない)」「×(あまり扱われない)」で私が主観的に評価した。各分類における記号を多い順に左から示した。()内は数がわずかしかなかったものである。示されていない記号は,その分類内では該当するものがなかった記号である。スペースの関係上,分類されたすべての抽象名詞を示すことはできないが,いくつかの例を合わせて示しておく。

 

表11.2[→] 抽象概念・抽象名詞の分類と例

分類名

哲学の主な対象か?

部分

 

×(△)

手,顔,鼻,指,心臓,骨,壁,窓,屋根,ページ,ふた,土台,画面,根,茎,葉,肉,脂肪,毛,尻尾

ラベル

×(△○)

社長,お父さん,妹,娘,大学生,学生,研究者,大統領,少納言,知人,お客様,監督,専門医,先輩

×(△○)

作品,試料,商品,製品,ゴミ,付録,食料,食品,自宅,著書,産物,資源,原料,薬,設備,遺産

集合(組織)

 

×(△)

高校,学校,会社,家族,王室,サッカー部,社会,機関,協会,オーケストラ,議会,政府,国民,世帯

客観的動作
(と成果物)

漢語・外来語

×(△)

歩行,消去,変更,デザイン,報告,解説,サイン,入学,演奏,会話,発言,研究,キャンセル,中止

和語

×(△)

歩き,歩み,動き,泳ぎ,話し,出会い,組み合わせ,売り上げ,手伝い,支払い,申し込み,取引

間接

×(△○)

未払い,強盗,防災,詐欺,言動,睡眠,挙動,賛否,照明,暴動,乱,降雨,終戦,入試,人生,医療

客観的特徴

形容詞

×(△○)

長さ,深さ,丸さ,熱さ,強さ,強み,多さ,明るさ,優しさ,怖さ,若さ,よさ,赤さ,珍しさ

形容動詞

×(△○)

静かさ,豊かさ,暖かさ,爽やかさ,確かさ,平和,正確,元気,自由,平等,必要,可能,可能性,自然

間接

×(△○)

最善,安否,国産,重症,無線,善悪,真っ暗,是非,大小,調子,通常,精度,擬似,とろみ,笑顔

主観的動作
(と成果物)

漢語・外来語

○(△)

哲学,思考,判断,推論,想像,記憶,イメージ,愛,否定,期待,安心,信仰,認識,熱中,共感

和語

△(○)

考え,思い,覚え,疑い,感じ,思いつき,祈り,喜び,悲しみ,思い出,怒り,願い,学び,心得,悩み

間接

○△

人生,需要,知見,疑惑,最愛,同性愛,見当,自信,恥

主観的特徴

形容詞

○△

正しさ,美しさ,かゆみ,かゆさ,痛み,嬉しさ,心地よさ,恥ずかしさ,欲しさ,寒さ,怖さ,眠さ

形容動詞

○△

幸せ,幸福,安心,暖かさ,元気,不安,心配,満足,不満,残念,不快,細心,無意識,不平,不信

間接

○△

激痛,過労,意欲,欲求,食欲,孤独感,恐怖,快感,苦,郷愁,寒気,興味,情熱,反感,苦難,重症

方法

 

×(△)

手順,手段,手法,ステップ,仕方,やり方,用法,プロセス,作戦,流派,手口,洋式,軍用,工程

能力・技術

 

○(△)

技能,才能,実力,知能,性能,動力,分解能,自力,武力,全能,活力,機能,魅力,スキル,武術

自然現象

 

×(△)

雨,風,虹,雲,地震,天気,火,光,闇,波,息,気候,火事,稲妻,潮流,津波,日食,煙,影,潮汐

物質

 

×(△○)

水,牛乳,水銀,鉄,ガラス,砂,砂糖,小麦粉,空気,ご飯,ラーメン,酒,プラスチック,液体,血

説明

 

○(△)

電子,エネルギー,質量,原因,進化,水素,電磁波,電流,酸化,病気,魂,ビッグバン,命,運命

時間

 

×△(○)

現在,過去,当日,12月,2008年,530分,春先,月曜日,時代,今日,期間,朝,秋,年末,午後,昔

場所

空間

×(△○)

国内,地方,都道府県,国,部屋,理科室,森,ルート,都会,階段,東西南北,道,空,海,会場,川

施設

×

高校,学校,会社,空港,駅,ショッピングモール,図書館,市役所,病院,家,工場,博物館,神社

価値・お金

 

×△○

料金,100円,ユーロ,無料,利益,コスト,金額,税金,会費,賃金,年収,損害,災害,損失,紙幣

社会・文化

状況

×○△

サッカー,スポーツ,祭り,入学式,交通,試合,学会,オペラ,イベント,会議,行事,将棋,出来事

その他

×△○

政権,政策,政治,文明,条約,司法,法律,権利,義務,映画,産業,芸術,私立,犯罪,福祉,還暦

情報・通信

 

×(△)

インターネット,プログラム,アプリケーション,ウェブサイト,オンライン,電子メール,画像,映像

表現・言語

内容

○△×

情報,思想,知識,学問,物理学,小説,ルール,経典,問題,理論,仮説,理由,目的,基準,業務

その他

×○△

文,命題,記号,文字,単語,名詞,主語,意味,グラフ,図表,章,段落,名前,英語,本文,絵,数字

数学

数量

×(△○)

数,データ,値,割合,比,以上,トップ,3番目,順番,点数,単位,式,番号,半分,範囲,平均

図形

○×△

上下左右,前後,奥,手前,内外,間,輪郭,形,点,表裏,色,方向,線,中央,円,側面,平面,幅

 

△○

音楽,騒音,声,音声,曲,アンサンブル,ソナタ,主題歌,音響,音韻,音符,大声,同音,余韻,歌

認識・分類
・概念整理

 

○(△×)

対象,存在,項目,種類,事例,構造,ジャンル,場合,全体,逆,要素,前者,様式,相互,選択肢,組

心の構造
・枠組み

 

感覚,視覚,視野,精神,意識,メンタル,センス,心,主観,感覚質,現実,観点,印象,色,感情

 

 抽象概念・抽象名詞はこのように分類することができると思われる。ただ,この分類は絶対的・客観的なものではなく,あくまで私にとっての主観的なものである。他の分類もありうるだろう。それぞれの人にとって最も整理されていると思われるものが,その人にとっての分類となるのだろう。

 哲学の主な対象となる概念かどうかの評価も私の主観的なものである。それによれば,「主観的動作」「主観的特徴」「能力・技術」「説明」「表現・言語」「数学」「音」「認識・分類・概念整理」「心の構造・枠組み」などが哲学の主な対象概念であることになった。やはり,これらには主観的(心的)なものや抽象的なものが多く含まれているように思われる。ただ,この哲学の主な対象かどうかの評価も人それぞれ様々になりうると思われる。また,これは暫定的なものであり,今後変わっていく可能性もある。

 主に哲学の対象となる概念は主観的であれ,やはりあるように思われるが,その一方でどの概念もが,やはり時と場合によっては哲学の対象になりうると思われる。どの概念についても改めてその性質を分析し,再定義しようと吟味することは可能であるように思われる。よって,すべての概念が哲学の対象になりうると言える。

 そうなると,では改めて概念とは何かということになる。概念とは,単語に対応する心的イメージのようなものであった。それが画像的・映像的なものであるときもあれば,そうでないときもあった。しかし,単語の意味がわかっていれば,何らかの心的イメージはあり,それについて分析すなわち哲学することができるように思われる。ここで,単語の意味がわかるとは,その単語の使い方がわかるということである。また,わかるというのは自分なりに判断の基準をもっているということである。よって,これらをまとめると,概念とは使い方がわかる単語に対応する心的イメージであると言えるだろう。

 これによれば,「ポペ」などの意味や使い方がまったくわからない単語もどきには対応する概念は存在しないということになる。

 最後に,今までに出てきた概念の階層構造を図にして整理しておく。

 

図11.1 概念の階層構造 

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